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シネマインタビュー

『映画 太陽の子』黒崎博監督インタビュー

かつて存在した”日本の原爆研究”。その事実を背景に、3人の若者の決意を揺れる思いを描いた300日の青春グラフィティ『映画 太陽の子』。黒崎博監督に映画にまつわるお話や大学生へのメッセージをガクシン記者がインタビュー!

 

–私自身今回こちらの作品を通して、日本でもかつて原子の力を利用した新型爆弾の開発が行われていたということを初めて知り、衝撃を覚えました。実現はしませんでしたが、研究を京都大学で行っていたという事実は、ショッキングであり、センシティブな話題でもあると思いますが、今回、こうした事実を題材として映画化しようと思ったのは何故でしょうか。

黒崎監督:最初は、私がある図書館でみつけた資料の中に、若い科学者が書いた日記の断片を目にしたのがスタートだったんです。「1945年8月6日に広島に新型爆弾が落とされた、と知った京都帝国大学の原子物理学を勉強していたメンバーがそのニュースを聞いて、これはもしかしたら自分達が研究しているものと同じ原理を使った原子爆弾ではないか、と思い現地調査のため京都駅から夜行列車に乗り広島まで乗り継いで行った。8月10日に広島に着くと広島駅は無くなっていて、広島の街もなくなっている。しかもこれは自分達が研究している原子物理学の核分裂を使った爆弾に間違いなくて、自分達が研究していたことはこういうことなのだ、ということを世界で初めて知った。」そういうことが一日一日を追ってドキュメントのように日記に書かれていたのです。それを読んだ時に、絶対これを物語にしたいと思いました。その日記には普通に大学に通い、友達と話し、勉強をしてという日常の学生生活についても書いてあったんです。つまり彼らは最初から恐ろしい殺戮兵器をつくろうとしていたわけではなく、普通の大学生で、しかも原子物理学というのは当時の最新の学問なので、もう希望に燃えていたと思うんですよ。でもそれが広島に行ってみたらとんでもないことになっていた。だから、特別な人達の話じゃなくて、これは自分達にも起こりうる物語だと思ったんです。

 

–なるほど、なので、映画のキャッチコピーに青春という言葉が入っているんですね。

黒崎監督:そうですね。この映画で描いているのは特別な人達ではなくて普通の人達が送るであろう等身大の青春とよく似た青春なんじゃないかっていう気がするんですね。特別な人達の物語ではなくて、普通の京都の大学生のお話で…。だから描いてみたいと思ったのかなと思います。

 

–黒崎監督は京都大学出身とのことですが、今回京都大学での撮影ということで、何か感慨深いところはありましたか。

黒崎監督:久しぶりに京都大学や、他の大学のキャンパスも一部使わせてもらっているのでそのキャンパスの中を歩かせてもらったりしたんですよね。そのロケハンをしていたときは2019年の5月頃だったんですが、思ったのはね、めちゃめちゃ楽しそうだなと。キャンパスに行くことができない今の大学生のみんなは本当にどんな気持ちだろうって思うけど、そのときはキャンパスの中が学生で溢れていてすごく楽しそうだなあ、こんなに大学って楽しそうだったっけなあって思ったんですよ。これは1945年の物語ですけど、そのときも学校の校内というのは、ガランとしていたそうなんですよ。一部の理系の人だけが大学に残って研究を続けていて、それ以外の学生はみんな兵隊にいっていたんです。だから、閑散としていた。それは国が非常事態だからだけど、そんなことがなければきっと2019年と同じようにすごく楽しかっただろうなあって。でも今、大学は非常事態で普段通りの勉強ができないようになっている。だから、本来あるべき大学の楽しい生活が送れなくなっているという意味では大学生にとって同じような時代に直面しているのかもしれないというふうに思います。

 

 

–今回の舞台は太平洋戦争末期の京都でしたが、太平洋戦争末期の世界観を演出するにあたって苦労したことはありますか。

黒崎監督:太平洋戦争にまつわる映画とか小説とかは、戦争の時日本はこうだったっていうイメージをたくさん教えてくれますよね。でもそういうものは、それぞれ1つの材料でしかないから、どれか1つをこれに合わせれば正解で、その当時のことが正しく表現できるという訳じゃないですよね。それぞれ一面的なものしか知ることはできないから。だから、俳優さんも含めてどうやって想像力を使ってイメージを膨らましていくかということをいつも話し合ってやっていましたね。例えば、地味な洋服を多くの戦争映画の中では着ていますけど、それはもちろん事実、そうだと思うんですね。でも、この映画の中では、きちんと自分の暮らしを生きている人が、どういうものを着たいと思うかなって考えたときに、例えば他の人に不快感を与えるような色使いでなければきれいな色使いの着物とかモンペを身につけていたいって思うんじゃないかなって。だから、世津っていう女の子の衣装は、戦争の時代だから灰色の服以外は着ない、ではなくて、やっぱり家の中にある古い着物からそれを仕立ててモンペを作っただろうから、その中でもちょっとだけかわいらしい色使いのものをこの映画の中では着ることにしよう、とかそれはもう僕たちの想像なんですけど、こういう生き方をしている人物だったらこういう衣装を身につけるんじゃないか、とか。食べ物にしても、自分の息子が命をかけて戦場に旅立っていくときに、きっとあのお母さんだったら真っ白なお米でおにぎりを作ってあげたいだろうし、お米の配給は少しだけだけどあったわけだから、そのために絶対お米をとってある、と思ったんですよ。それは想像なんですよね。だから、正しいとか間違っているとかも大事だけど、そこからさらに想像力を働かせてこの人だったらこういう風に生きたんじゃないか、っていうことを考えて作るようにしていました。

 

–主人公の修は、開発しているものが兵器であるということの恐ろしさから葛藤しつつも、1人の科学者として純粋な情熱から研究を追い求めていましたが、その純粋な探求心に少し怖さを感じました。そうした科学者が抱える複雑な心情の演出は、どのように意識されていましたか。

黒崎監督:主人公は、根は優しいやつだし真面目だし他人を傷つけるようなタイプじゃないんですよね。ただ、科学っていうことについて言うと、ものすごく自分自身で何かを見つけたいと強く思っているし、いっぱしの科学者になりたいと強く思っている。それから核分裂っていう現象に強く強く惹かれているんですよね。だから、自分の夢を追い求めるときにどこかで、そのためには何を犠牲にしても構わないって思っているような気がするんですよ。だから、この物語の終盤になって少し狂気というか、人間と人間じゃないその境界線を彼は一歩だけ踏み越えてしまっているのかなっていう風に思っていて、それを演じるには、内面に持っている静かな狂気を表現できないといけなくて、すごく難しいお芝居になるのですが、柳楽優弥さんだったら演じてもらえるんじゃないかなと思って彼に主役をお願いしたんですよ。撮影の間も何度も何度もこれでいいのかということを話し合いながらやっていました。

 

–最後に、ガクシン読者である大学生にメッセージをお願いします。

黒崎監督:限られた時間の学生生活だけど、その期間っていうのはやっぱり人生のなかで特別な時間なんだろうなって思うんです。社会に出て行く前に、自由に自分がやりたいことを考えられる貴重な時間なんだなあって。今自分はこういう仕事をしているけど、撮影でキャンパスを歩いた時に昔自分も特別な時間のなかにいたのかっていうことに思いを巡らしたりしたんですよね。今そこに生きている皆は、今が特別だなんて意識する必要はないんだけど、でも、こんな状況のなかだけどなにか1つでも2つでもやりたいことや、できることを見つけて、1つでもそれを実行していったとしたら、きっとそれはそのあとの人生にも何かしら絶対影響を及ぼしてくれると思います。

 

 

ありがとうございました!


黒崎博
1969年生まれ、岡山県出身。92年にNHKに入局。2010年、ドラマ「火の魚」の演出により平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞放送部門、第36回放送文化基金賞演出賞、および東京ドラマアウォード2010演出賞を受賞。主な映画作品は『冬の日』(11)、『セカンドバージン』。『神の火』(Prometheus’ Fire)でサンダンス・インスティテュート/NHK賞2015にてスペシャル・メンション賞(特別賞)を受賞。「太陽の子」(GIFT OF FIRE)と改題し、2020年にパイロット版とも言うべきテレビドラマが放映される。主な作品にNHK連続テレビ小説「ひよっこ」、「帽子」(08)、「火の魚」(09)、「チェイス〜国税査察官〜」(10)、「メイドインジャパン」(13)、「警察庁長官狙撃事件」(18)、現在放送中のNHK大河ドラマ「青天を衝け」(21)などがある。


『映画 太陽の子』

 


(C)2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ

https://taiyounoko-movie.jp/

配給:イオンエンターテイメント

8月6日()、全国公開

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